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365日のJournal

5月

may
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May, 2022

mai03 mai04

おとしぶみのゆりかご

 

 カントウの丘陵地、平地林の中には、エゴノキという雑木が混じっています。高さは6~7mにまでなるでしょうか、あまり大木にはなりません。比較的明るいところに生えて、そのうち周りの木が大きくなり影に入れば枯れてしまいます。

 実にはサポニンという毒を含みますから、野鳥たちは食べません。ただヤマガラという鳥だけは毒を抜く方法を知っていて、この実をせっせと集めます。方法と言ってもどこかに隠しておくだけです。時間が経てば自然にアクが抜けるのです。

 エゴの木の花はたいへん美しく、初夏に白い花を沢山咲かせます。花が終われば木の下は、雪が降ったように真っ白になります。

 この時期におもしろい虫がやってきます。エゴノツルクビオトシブミです。まず木を見まわして、小さな円筒形に巻かれている葉を探します。
 これはオトシブミのメスが作ったゆりかごで、中に卵を一つ産み付けています。巻かれた葉が見つかれば近くにオトシブミがいる可能性があります。1cmにもならない小さな虫ですが、黒い体には艶があり、明るい若葉の中でよく目立ちます。ナイフを使ったように、すっと葉に切り込みを入れ、くるくるまるめて卵を産み付けます。葉は柔らかいようで、小さな虫にしてみればかなりの力仕事でしょう。働く姿は力強く、腕がとても太く見えます。

 昔は好きな人の前へ、葉に書いた恋文を落としたと言います。短い言葉しか書けなかったでしょうね。口で言ってしまえば早いのに、わざわざするのがいいのでしょうか。
 昆虫のオトシブミも、愛情が深いですね。愛が進化して進化して「そこまでやりますか?」というくらいのことを、ただただ無心にやり続けます。

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May, 2022

may13 may19

中洲アナーキー

 

 その日、仕事が午前中で終わる予定だったので、あそこの森へ寄ろうか、あの田んぼへ行ってみようかと、楽しみにしていたのです。
 ところが昼間から小雨が降りだし、あきらめかけていたところ、多摩川を渡る前から空が明るくなりました。急遽ルートを変更し、河原へ降りられる場所を探します。

 曇り空の柔らかな光の下、半島のように伸びる中州を見下ろすと、なにか紫色の花がいくつも大きな塊になって咲いているようです。中州へ渡るには、どこかで川を渡らなければいけません。少し考えましたが、もうこの後は人に会う予定もありませんので、そのままずんずんと水に入り、ひざ下まで濡らして、中州に上陸しました。そこは本当に息をのむような野の花の天国でした。 

 薄紫の雲のように見えたのは、豆科のナヨクサフジでした。花の先が白く、元に行くにつれグラデーションで濃い紫になりますから、花が光っているように見えます。マツヨイグサ、ユウゲショウ、スイカズラ、グンバイナズナ…、あらゆる植物が、青い雨上がりの光で、瑞々しく光っています。

 中州の長さは100mほどありますが、大きな木はありません。高さ2mほどのイボタノキが、白い花をたくさん咲かせており、それが一番高いようです。
 何年かに一度は大水が出て、全てを洗い流してしまうからでしょう。しかし川の土には栄養たっぷり日当たりも完璧ですから、植物たちはどこまでも旺盛。いつも見慣れたイボタノキもうねる波の樹形なって、飛沫のように花を咲かせます。あちこちで大小の群落が自由に広がり、重なり、これ以上の夢世界はないかのような美しさです。

 数年に一度の大水と、四季の他は、誰の統制もデザインも無く、あらゆる外来種も阻まないというのに、この胸躍る美しさ、完璧な宇宙! アナーキー(無政府状態)の混乱は、人間世界だけのことかもしれません。

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