リビングルーム
学生時代、東京の立川という街で、友人たちと米軍ハウスに住んでいました。今でいうシェアハウスですね。ガランと広い部屋に木の床、木の壁。戦後間もなく、占領軍が基地の街に建てた大きな平屋の家に、体いっぱいで呼吸できる自由がありました。
別々の美術大学に通う3人でシェアしたので、家全体は大きな工房のようでもあり、アトリエでもあり、音楽スタジオでもあり、とにかく何かが生み出される場所でした。ホームパーティーには50人以上来ることもあり、手作りしたケーキがあまりに大きく、厨房のドアを外してリビングに入れた思い出もあります。
今、あらためて自分の住んでいる家のリビングを見ると、あの米軍ハウスの心地よさ、物を生み出す自由が、そのままあるように思えます。違うとすれば、僕はその後、北欧の自然や文化を紹介する仕事をしていた時期があり、その影響があるようです。木の色の温かみ、厚みを基調にし、テーブルや椅子も、ミッドセンチュリーの北欧デザインがいくつかあります。
元々この家のベースデザインは、絵描きだった母によるものです。彼女は着る服や、活ける花は派手でしたが、家の内外装は落ち着いたものでないと嫌で、徹底的なモノトーンでした。僕が今住んでいる家は、母のそんな意向を映し、壁の全てがシナベニアにオイルステンで仕上げてあります。床もナラ材のステン仕上げ。壁も床も焦げ茶色の、土の中の巣穴のような家なのです。
二人の弟たちは、この家をあまり気に入っていなかったようで、結婚してしばらくすると家を出て、明るい壁の部屋に、明るい家具で暮らしています。その後、米軍ハウスから戻ってきた僕は、おおらかな木の家の自由なしでは、生きられないというわけです。
シンプルなインテリアであれば、壁は白で、茶色のレザーの椅子や、シックな家具を置くのがセオリーでしょう。しかしうちはその逆。カーテン、椅子、棚などに、白や明るい生成り(エクリュ)を使い、メリハリをつけるようにしています。
茶色と言っても、濃いチョコレート色もあれば、淡いカフェオレ色もある。赤っぽいチーク材、黄色っぽい籐の椅子もある。そんなモノトーンの幅の中に、何か個性的な色味が入るのが好きです。
並べてみて、すっと心が落ち着いたら、それがあなたのセンスでしょう。
床と壁が広く見えるのがいいですね。心地よく空間を開けられると、心が楽になります。物より、空間があることが豊かです。