おとしぶみのゆりかご
カントウの丘陵地、平地林の中には、エゴノキという雑木が混じっています。高さは6~7mにまでなるでしょうか、あまり大木にはなりません。比較的明るいところに生えて、そのうち周りの木が大きくなり影に入れば枯れてしまいます。
実にはサポニンという毒を含みますから、野鳥たちは食べません。ただヤマガラという鳥だけは毒を抜く方法を知っていて、この実をせっせと集めます。方法と言ってもどこかに隠しておくだけです。時間が経てば自然にアクが抜けるのです。
エゴの木の花はたいへん美しく、初夏に白い花を沢山咲かせます。花が終われば木の下は、雪が降ったように真っ白になります。
この時期におもしろい虫がやってきます。エゴノツルクビオトシブミです。まず木を見まわして、小さな円筒形に巻かれている葉を探します。
これはオトシブミのメスが作ったゆりかごで、中に卵を一つ産み付けています。巻かれた葉が見つかれば近くにオトシブミがいる可能性があります。1cmにもならない小さな虫ですが、黒い体には艶があり、明るい若葉の中でよく目立ちます。ナイフを使ったように、すっと葉に切り込みを入れ、くるくるまるめて卵を産み付けます。葉は柔らかいようで、小さな虫にしてみればかなりの力仕事でしょう。働く姿は力強く、腕がとても太く見えます。
昔は好きな人の前へ、葉に書いた恋文を落としたと言います。短い言葉しか書けなかったでしょうね。口で言ってしまえば早いのに、わざわざするのがいいのでしょうか。
昆虫のオトシブミも、愛情が深いですね。愛が進化して進化して「そこまでやりますか?」というくらいのことを、ただただ無心にやり続けます。