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June, 2022

june05 june06

モンキチョウ交尾拒否

 

 大好きな人と結ばれ、子どもを育て上げ、人生のあらゆることで協力し、最後まで添い遂げられたら幸せですね。結婚式ではそういうことを神様に誓ったりするわけですが、誓いを成就できる人は、どのくらいいるのでしょうか?

 多くの昆虫は、成虫になってから死ぬまでがとても短く、愛の成就を誓うまでもなく、ただパッションに従いまい進するしかありません。そしてそこにはメスをめぐる命がけの戦いもあり、策略も、略奪も殺戮も、命の力が試されるあらゆるものがある。

 その日、僕はうちから50kmほど離れた埼玉県内の田園地帯で遊んでいました。高速を使えば1時間ほどで行ける場所です。広い河川敷の草原で、モンキチョウが飛んでいました。黄色いのがオス、白いのがメス、二頭の蝶は水平に、あるいは突然進路を変え、くるくる回りながら追いかけあい、小さな竜巻のように、空へ高く高く飛んでいきます。

 草の上へ降りたメスを見ると、お尻を上へ上げています。一見オスを誘っているように見えますが、これは「私はもう交尾を済ませています。あなたと結ばれることはできません。」という合図で、この姿勢を取られればオスはもう何もできないのです。

 モンシロチョウの場合は、メスがこの姿勢を取れば、オスはすっと身を引きますが、モンキチョウは何かフェロモンでも出しているのでしょうか、オスは執拗に追いかけ、メスもそれを受けて力いっぱい飛び、まるで熱烈な愛のダンスのように見えるのです。

 このダンスは、なにも得ることのできない、まったく無駄なことでしょうか? 無我夢中で踊るうちに、メスは自分の過去を忘れてしまい、自分のダンスに最後まで付いてきたオスと結ばれるのではないか? あるいはそんな奇跡が起きてしまう可能性を秘めた、進化の過程のダンスではないか? そんな想像もしながら、初夏の蝶を追いかけました。

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June, 2022

june01 june02

オカトラノオ・恋の舞台

 

 オカトラノオは初夏の丘陵地に普通に咲く花です。遊歩道の脇や林縁に、明るい場所が広がっていれば大群生することもあります。
 名前の通り、花は長い茎にたくさんに付き、下から順番に咲きますから、咲いている部分は太く、先端のまだ蕾の部分が細いのです。その先端がすいっと上を向くのを、虎の尾に見立てたわけです。五弁の白い花は近くで見ても美しく、暑さを忘れさせる爽やかさがあります。

 この花が咲くのを待っているのは、私たち人間だけではありません。メスグロヒョウモンや、ミドリヒョウモンなどのタテハ類の蝶も、よく吸蜜に訪れます。メスグロヒョウモンは名前の通りメスが黒っぽく、墨絵のような美しいぼかし模様があります。オスはオレンジ褐色です。
 多くの虫たちがそうであるように、メスグロヒョウモンも、まずオスが先に羽化します。栗の花の上などにオスだけが集まり吸蜜していることがありますが、これは羽化したばかりで、翅にも傷がなく初々しい感じがします。
 やがてオスたちはあちこちへと、ばらけて飛んでいきます。そしてそこで遅れて羽化したメスに出会います。遠くのメスと交尾することで遺伝子の多様性を得て、メスはあまり動かないことで、自分が生まれ育つことができた環境の中で産卵するというわけです。

 オカトラノオの群生は、メスグロヒョウモンたちが恋をするのに格好の場所です。爽やかに揺れる虎の尾の上で、蝶たちは吸蜜し、出会い、結ばれます。
 6月の頭ごろ、優しい風が吹く晴天の日、空中婚に最高の日は、今週の終わりごろか? 来週になりそうか? オカトラノオは咲き始めたか? そんなことばかり考えているのです。

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