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365日のJournal

  

きのこ

mushroom
essay
     

category

nature

October, 2020

oct11 oct08

ひとよたけ

 

 何年か前に枯れて伐られた大きな桜の切り株に、きのこが沢山出ていました。ヒトヨタケの大群生です。
 地面の中の根からも出ているようで、3m四方ほどの広さで、数百課、数千のきのこが出ています。ヒトヨタケの英名はInk Cap 一晩で黒く溶けていく様が、インクを滴らせているようだというわけです。

 ヒトヨタケは食べられるきのこですが、アルコール分解酵素を阻害することが知られています。つまりヒトヨタケを食べると、お酒がとても弱い人になってしまうのです。
 若いころをそれを確かめようと、ヒトヨタケを一本食べて、ビールを小さじ半分ほど飲んでみました。それでも明らかに気持ちが悪くなり、しばらく二日酔いのような状態になりましたので、かなりの効き目です(本当はそんな実験してはいけません)。

 もう10年以上も昔ですが、僕は仕事でスウェーデンへ行き、バルト海の小さな島を取材しました。いっしょにいた女性が「ああ、そういえば、この近くに私のおじさんが住んでいるわ!」と言うので訪ねてみると、木造のサマーハウスに、品のいい老夫婦が住んでいました。その人こそ、ヒトヨタケのアルコール分解酵素阻害を発見したルンド大学のボリエ教授だったのです。「本当はヤマドリタケを採りに森へ行きたいけれど、私ももう歳ですからね。」ボリエ先生は少し残念そうにそう言いました。
 僕は釣ってきた大きな鱒のお腹に、海岸の松林で採ったヤマドリタケをいっぱい入れて焼き、ボリエ夫婦と昼食を共にしました。ヒトヨタケを見るたびに、あの楽しい午後を思い出します。

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