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365日のJournal

  

虫たち

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June, 2022

june05 june06

モンキチョウ交尾拒否

 

 大好きな人と結ばれ、子どもを育て上げ、人生のあらゆることで協力し、最後まで添い遂げられたら幸せですね。結婚式ではそういうことを神様に誓ったりするわけですが、誓いを成就できる人は、どのくらいいるのでしょうか?

 多くの昆虫は、成虫になってから死ぬまでがとても短く、愛の成就を誓うまでもなく、ただパッションに従いまい進するしかありません。そしてそこにはメスをめぐる命がけの戦いもあり、策略も、略奪も殺戮も、命の力が試されるあらゆるものがある。

 その日、僕はうちから50kmほど離れた埼玉県内の田園地帯で遊んでいました。高速を使えば1時間ほどで行ける場所です。広い河川敷の草原で、モンキチョウが飛んでいました。黄色いのがオス、白いのがメス、二頭の蝶は水平に、あるいは突然進路を変え、くるくる回りながら追いかけあい、小さな竜巻のように、空へ高く高く飛んでいきます。

 草の上へ降りたメスを見ると、お尻を上へ上げています。一見オスを誘っているように見えますが、これは「私はもう交尾を済ませています。あなたと結ばれることはできません。」という合図で、この姿勢を取られればオスはもう何もできないのです。

 モンシロチョウの場合は、メスがこの姿勢を取れば、オスはすっと身を引きますが、モンキチョウは何かフェロモンでも出しているのでしょうか、オスは執拗に追いかけ、メスもそれを受けて力いっぱい飛び、まるで熱烈な愛のダンスのように見えるのです。

 このダンスは、なにも得ることのできない、まったく無駄なことでしょうか? 無我夢中で踊るうちに、メスは自分の過去を忘れてしまい、自分のダンスに最後まで付いてきたオスと結ばれるのではないか? あるいはそんな奇跡が起きてしまう可能性を秘めた、進化の過程のダンスではないか? そんな想像もしながら、初夏の蝶を追いかけました。

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June, 2022

june03 june04

空虚になりすます

 

 少し前に、何気なく撮っていた蛾の写真を見ていて、あっ!と声を上げてしまいました。撮った時にはたぶん「きれいな蛾だな。見たことがないな。」くらいだったと思うのですが、あらためて写真を見て、この蛾が「空虚」になりすまそうとしていると気づいたのです。

 写真をよく見ていただければ分かると思います。この蛾はススキか何か、イネ科の植物の茂った中にいます。細長い葉が傾き、一部は枯れて重なり、いくつもの三角形ができています。三角形の中は深い闇だったりします。枯れた葉は色が抜け、にじんだような模様を見せています。これらの鋭角と、ぼやけと、闇の混在する世界を、この蛾は自らの全身で描いているのではないでしょうか?

 そんなにも複雑な世界を、見事にデザイン化しながらも、蛾は何も知らぬように、安心しきって、午睡を楽しんでいるようです。ただ静かにしていることが、誰にも見つからず安全と知っているのでしょう。実際、蛾は何かを思考するような脳は持ってはいません。それなのに、人間が考えに考え抜いても思いつかないようなデザインできるのはなぜしょうか?
 ダーウィンの進化論が完全はないことを、もっとも分かりやすく証明できるのは、蛾をはじめ、多くの生きもの行う「擬態=なりすまし」ではないでしょうか?何かになりすまして、身を隠せるようになるために、少しずつ体を変化させたとすれば、中途半端に似ている時に生きていけません。その変身計画はそこで終わるでしょう。とすれば、擬態はある日突然、かなりの完成度で実現されたと考えられないでしょうか?
 蛾の中には様々な形態と色彩のデータがあり、ある日それを取り出したのか!? ではそのデータはいつ、どうやって作成、保存されたのか? たった1グラムの脳もないこの虫の、どこにそのデータはあるのでしょう?

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July, 2021

july05 july06

アオバハゴロモの赤ちゃん

 

 木漏れ日の中、葉っぱの上に変な虫がいます。大きさは1cmにもならないでしょうか、お尻にはたんぽぽの綿毛のような物が、ワッと出ています。
 くるくると動いているところを前後から撮りました。これはやはり植物の綿毛か、鳥の羽かに擬態しているのでしょう。手を伸ばすとピン!と飛んで逃げてしまいました。強力なジャンプ力があるのです。

 後で写真を見てみると、目玉がまん丸でだるまさんのようです。これが成虫になると、美しいエメラルドグリーンの翅を持ちますので、アオバハゴロモという名前がついています。薄布をまとった天女のような美しい虫ということでしょうが、小さいころから、大人になっても「目玉はだるまさん」ということを僕はしっています。

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August, 2019

au01 au02

ぼくナナフシだから

 

 ナナフシの幼虫が草の上でじっとしています。じっとしている時は前脚をぴんと伸ばして、細い枝のふりをしています。脚を頭の脇にぴたっと揃えるために、脚の付け根が頭の形にまるくカーブしています。こういう進化というのはどうやったらできるのか? とても不思議です。
 ちょっかいを出すと仕方なく動きだします。少し動いて葉っぱや枝の端っこで、また手足を伸ばします。真ん中は嫌い、端っこが好きなのです。

 野外で出会うときはたいていじっとしていますが、飼えば食事の様子も観察しやすいです。コナラの葉などをよく食べて小さな糞をいっぱいします。この糞の中に、同じくらいの大きさの卵が混じっています。形がおもしろいので観察すると楽しいのです。ナナフシの糞は植物繊維の塊で、ぜんぜん臭くありません。集めて乾かせばお香とか、お茶になるかもしれません。

 卵はとても硬いです。ナナフシが鳥に食べられてしまっても、卵は消化されず、鳥の糞の中から孵化することもあるそうです。そんな生き物ほかにいるのでしょうか?(いるのでしょうね!)

 ナナフシの赤ちゃんは透き通る体に、頭の横のストライプがかわいいですね。大人は、手足を伸ばせば鉛筆くらいの長さになります。

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May, 2022

mai03 mai04

おとしぶみのゆりかご

 

 カントウの丘陵地、平地林の中には、エゴノキという雑木が混じっています。高さは6~7mにまでなるでしょうか、あまり大木にはなりません。比較的明るいところに生えて、そのうち周りの木が大きくなり影に入れば枯れてしまいます。

 実にはサポニンという毒を含みますから、野鳥たちは食べません。ただヤマガラという鳥だけは毒を抜く方法を知っていて、この実をせっせと集めます。方法と言ってもどこかに隠しておくだけです。時間が経てば自然にアクが抜けるのです。

 エゴの木の花はたいへん美しく、初夏に白い花を沢山咲かせます。花が終われば木の下は、雪が降ったように真っ白になります。

 この時期におもしろい虫がやってきます。エゴノツルクビオトシブミです。まず木を見まわして、小さな円筒形に巻かれている葉を探します。
 これはオトシブミのメスが作ったゆりかごで、中に卵を一つ産み付けています。巻かれた葉が見つかれば近くにオトシブミがいる可能性があります。1cmにもならない小さな虫ですが、黒い体には艶があり、明るい若葉の中でよく目立ちます。ナイフを使ったように、すっと葉に切り込みを入れ、くるくるまるめて卵を産み付けます。葉は柔らかいようで、小さな虫にしてみればかなりの力仕事でしょう。働く姿は力強く、腕がとても太く見えます。

 昔は好きな人の前へ、葉に書いた恋文を落としたと言います。短い言葉しか書けなかったでしょうね。口で言ってしまえば早いのに、わざわざするのがいいのでしょうか。
 昆虫のオトシブミも、愛情が深いですね。愛が進化して進化して「そこまでやりますか?」というくらいのことを、ただただ無心にやり続けます。

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