モンキチョウ交尾拒否
大好きな人と結ばれ、子どもを育て上げ、人生のあらゆることで協力し、最後まで添い遂げられたら幸せですね。結婚式ではそういうことを神様に誓ったりするわけですが、誓いを成就できる人は、どのくらいいるのでしょうか?
多くの昆虫は、成虫になってから死ぬまでがとても短く、愛の成就を誓うまでもなく、ただパッションに従いまい進するしかありません。そしてそこにはメスをめぐる命がけの戦いもあり、策略も、略奪も殺戮も、命の力が試されるあらゆるものがある。
その日、僕はうちから50kmほど離れた埼玉県内の田園地帯で遊んでいました。高速を使えば1時間ほどで行ける場所です。広い河川敷の草原で、モンキチョウが飛んでいました。黄色いのがオス、白いのがメス、二頭の蝶は水平に、あるいは突然進路を変え、くるくる回りながら追いかけあい、小さな竜巻のように、空へ高く高く飛んでいきます。
草の上へ降りたメスを見ると、お尻を上へ上げています。一見オスを誘っているように見えますが、これは「私はもう交尾を済ませています。あなたと結ばれることはできません。」という合図で、この姿勢を取られればオスはもう何もできないのです。
モンシロチョウの場合は、メスがこの姿勢を取れば、オスはすっと身を引きますが、モンキチョウは何かフェロモンでも出しているのでしょうか、オスは執拗に追いかけ、メスもそれを受けて力いっぱい飛び、まるで熱烈な愛のダンスのように見えるのです。
このダンスは、なにも得ることのできない、まったく無駄なことでしょうか? 無我夢中で踊るうちに、メスは自分の過去を忘れてしまい、自分のダンスに最後まで付いてきたオスと結ばれるのではないか? あるいはそんな奇跡が起きてしまう可能性を秘めた、進化の過程のダンスではないか? そんな想像もしながら、初夏の蝶を追いかけました。