rogo
住む

風と光が遊ぶ部屋

自然の色を思う

kitchen
kitchen-tool
light
hanger
心がすっと楽になるようなリビング、
暖かい気もちになるダイニング、
台所は明るく機能的に、手を伸ばせば
届く位置に物があるといいですね。
やわらかな北からの光、
きらきらした朝の東の光が大好きです。
隣の、また隣の部屋から
見える窓も好きです。
並んでいる部屋のドアは、
たいていみんな開けていて、
木造校舎の廊下のように、
西の光が入るのです。
隣の部屋から流れてくる音楽も好きです。
がらんとした木の床で、
ボサノバやジャズを鳴らします。

茶色い部屋

Brown room

La brise souffle dans la pièce marron.
Chaque matin, la pièce marron se réveille
en respirant lentement avec café aromatique.
living
living

windowside

リビング窓辺
mark

白い部屋

White room

Il y a beaucoup de branches dans le pièce.
Ecoutez-vous, des oiseux chantent.
Cette après midi, nous allons pic-nicer chez moi. Ce sera très doucemment.

仕事部屋 キッチン 浴室

Creation space

Ma cuisine exposée au sud, c'est très agrèable comme printemps.
On va cuisiner beaucoup de plâts
pour inviter mes amis. Je suis très content de le faire.

茶色い部屋

numéro_01

brown room_winter

2022_01_05

livingroom

リビングルーム

 学生時代、東京の立川という街で、友人たちと米軍ハウスに住んでいました。今でいうシェアハウスですね。ガランと広い部屋に木の床、木の壁。戦後間もなく、占領軍が基地の街に建てた大きな平屋の家に、体いっぱいで呼吸できる自由がありました。
 別々の美術大学に通う3人でシェアしたので、家全体は大きな工房のようでもあり、アトリエでもあり、音楽スタジオでもあり、とにかく何かが生み出される場所でした。ホームパーティーには50人以上来ることもあり、手作りしたケーキがあまりに大きく、厨房のドアを外してリビングに入れた思い出もあります。

 今、あらためて自分の住んでいる家のリビングを見ると、あの米軍ハウスの心地よさ、物を生み出す自由が、そのままあるように思えます。違うとすれば、僕はその後、北欧の自然や文化を紹介する仕事をしていた時期があり、その影響があるようです。木の色の温かみ、厚みを基調にし、テーブルや椅子も、ミッドセンチュリーの北欧デザインがいくつかあります。

 元々この家のベースデザインは、絵描きだった母によるものです。彼女は着る服や、活ける花は派手でしたが、家の内外装は落ち着いたものでないと嫌で、徹底的なモノトーンでした。僕が今住んでいる家は、母のそんな意向を映し、壁の全てがシナベニアにオイルステンで仕上げてあります。床もナラ材のステン仕上げ。壁も床も焦げ茶色の、土の中の巣穴のような家なのです。 二人の弟たちは、この家をあまり気に入っていなかったようで、結婚してしばらくすると家を出て、明るい壁の部屋に、明るい家具で暮らしています。その後、米軍ハウスから戻ってきた僕は、おおらかな木の家の自由なしでは、生きられないというわけです。

 シンプルなインテリアであれば、壁は白で、茶色のレザーの椅子や、シックな家具を置くのがセオリーでしょう。しかしうちはその逆。カーテン、椅子、棚などに、白や明るい生成り(エクリュ)を使い、メリハリをつけるようにしています。
 茶色と言っても、濃いチョコレート色もあれば、淡いカフェオレ色もある。赤っぽいチーク材、黄色っぽい籐の椅子もある。そんなモノトーンの幅の中に、何か個性的な色味が入るのが好きです。
 並べてみて、すっと心が落ち着いたら、それがあなたのセンスでしょう。
 床と壁が広く見えるのがいいですね。心地よく空間を開けられると、心が楽になります。物より、空間があることが豊かです。

茶色い部屋

numéro_02

white room_spring

2022_03_14

window

リビングの窓辺

 窓辺を気持ちよくするのは大切ですね。どの部屋にいても、お風呂でも、トイレでも、窓辺に目がいきます。長い時間をすごすリビングなら尚のことです。
 うちのリビングの南側には大きな窓があり、そこから庭が見えます。住宅街の広くはない土地ですから、庭というより建物に挟まれた中庭という感じで、木々の合間から、前の家の白い壁と黒い窓枠が見えています。
 以前、北欧のエコビレッジを取材して回った時に、集合住宅の窓から見えるもの、感じるもの(隣の家の物音、気配)を上手く配置しているのに感心しました。木々の中で隣人たちを感じながら暮らしているのです。

 窓のすぐ外には濡れ縁があり、ここに植木鉢の植物を置くと、それだけ部屋が広くなります。気分しだいで出したり入れたりします。濡れ縁周りはきれいに整理して、なるべくカーテンは広く開けていたいですね。
 箒がかけてあったり、自転車が見えたり、よく使うものが、使いやすいようにあるのは気持ちがいいです。
「暮らす美しさ」と「もてなす美しさ」は少し違うように思いますが、「暮らす美しさ」でも、人は迎えられると思うのです。
 最近は、リビングの窓辺にいつもマルセルがいます。素焼きの植木鉢で作った火鉢ですが、テーブルにもなるし、金魚鉢とか、野草が入った瓶とか、なにか置いています。実際に火を起こして調理もします。小さなオーブンパンに、きのこやじゃがいもを放り込んでおくのが好きです。
 夜はカーテンをいっぱいに開けて、大きな窓辺を楽しみます。いいかんじに曲がった桜の枝でランタンスタンドを作りました。小さな光の下で、マルセルで淹れた珈琲は格別です。

*マルセル:植木鉢を火鉢にリメイクしたフレキシブル珈琲ステーション。コンセプチュアルアートの巨匠、マルセル・デュシャンの作品を思わせるので…。

茶色い部屋

numéro_03

brown room winter

2019_04_23

dinningroom

ダイニングルーム

 長方形の部屋を、正方形と長方形の二に分けて使うのが、我が家のインテリアの基本です。
 正方形のテーブルを使い、その周りに椅子を置けば、自然と部屋の中に正方形の空間ができる。残りの長方形は移動のために残す、あるいはストーブや小さな珈琲テーブルなど簡単に動かせるものの場所にします。
 うちのダイニングの主役は一辺90cm正方形のテーブルです。シンプルこの上ないデザインですが、無垢の栗材に蜜蝋だけ仕上げてあり、木目が美しい。天板は半年に一度水拭きし、蜜蝋を塗りなおします。
 最近、ダイニングの暖房をガスファンヒーターから古い石油ストーブに変えました。音が静か。コードもホースもないので部屋の中央に置ける。お湯がいつも沸いている。簡単な調理ができる。加湿器がいらないなど、いろいろ利点があります。

 インテリアとしての石油ストーブは、ケトルと一つで考えないといけません。茶色い壁のダイニングに生えるように、アンティックの白いケトルを探していたのですが、なかなかいい物が見つからず、新品の黒いケトルにしました。これが大正解でした。
 うちの壁は茶色といっても淡いトーンです。これに明るい色ばかり合わせていると、ぼやっとした部屋になってしまう。黒いケトルはダイニングをぐっと引き締め、インテリアの方向性を一新してくれたのです。椅子に敷くムートンをダークブラウンに、窓枠は濃いチョコレートに、棚の上にはバートヤンシュのブラックスワンのジャケットを置きました。

 一階は、東から西へ書斎、ダイニング、リビング、寝室と4つの部屋が並んでいます。それぞれの部屋はダイニングの考え方と同じに、正方形部分で主たる役割を果たし、長方形部分は空間に余裕を持たせるとともに通路にもなっています。
 ダイニングの僕の椅子は、4つの部屋を見渡せる位置にあります。2つの部屋のドアは取り外してあり、あとの2つもたいてい開いていますので、僕の椅子からは隣の、隣の部屋の向こうに、さらに隣の家の庭の木が見えるのです。
 遠くの風景を見ながら食事をすると心地よいのはなぜでしょう? 奥多摩のレンジャー時代、長い距離のパトロールでは、少しくらい時間が遅くなっても、見晴らしのいいところで昼食を食べようと、がんばって歩いたのを覚えています。

茶色い部屋

numéro_04

brown room summer

2020_06_05

window

木漏れ日のテーブル

 夏がそこまで来ていました。
 朝7時、大きめのグラスに水を注ぐと、テーブルの上で木漏れ日が揺れ動いています。東の窓の外に小さな森がありますから、その森の枝葉を通り抜け、やってくる光です。
 木漏れ日には2種類あるのをご存じですか?
 枝葉の形のものと、円形の2種類です。両者は形だけではなく、色も輝きも違います。枝葉の形の木漏れ日は、影絵と同じ原理です。
 丸い木漏れ日はピンホールカメラの原理で、光が小さな隙間を通り、太陽を逆さまに写しているのです。太陽から、その隙間までの距離はとても長い。隙間からテーブルまでの距離はとても短い。それと同じ比率で小さくなった太陽が、テーブルの上にころがっているわけです。いくつもいくつも!
 ついこのあいだ、窓を広くしました。そうしたら今まで見たことがない世界が、まさにころがり出したのです。

茶色い部屋
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自然のinspiration

モノトーンの中に色を見る

 どこにでもあるホオノキは、日本の樹木で一番大きな葉を付けます。大人の顔でもすっぽり隠してしまうくらいの大きさです。
 香りもよく、殺菌作用もあり、古くからお餅を包んだり、お皿の代わりにしたり、味噌と山菜を乗せて焼く「朴葉味噌」は有名です。日本中で普通に見られる木なので、森で大きな葉の木を見つけたら確かめてみてください。大きく掌を開いたような葉で、全体に丸みがあるのがホオノキ、角ばっているのがトチノキです。白い木肌の、ゆったりと気品ある木だから、きっと好きになってしまうでしょう。
 その大きな葉が冬にはみな落ち、春に一斉に芽吹く。大きな鉛筆キャップのようなカバーが、一枚一枚ほぐれて外れ、柔らかな葉が開く。何百という小型飛行機が一斉に飛び立つような光景は、止まっているのが嘘のよう! 身近な自然の中にある、息を呑むほど美しい光景を、知らない人が多すぎます。

 暗い森景を背にホオノキが芽吹く。シンプルな形の美しさ、淡いトーンの豊かさ。抑制された、一見するとモノトーンのような階調の中に、赤やピンクや紫の、実に多くの色味がある。
 こんな色使いを、いつか真似してみたいなと、僕の手で何かの形にしてみたいと、いつもそのチャンスを伺っている。そんな憧れと企みを持って、世界をいつも見ています。

inspiration
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白い部屋

numéro_01

white room_summer

2019_05_01

white room

白い部屋

 家中の壁が茶色い家で、弟と暮らしていました。弟が二階、僕が一階です。弟は若いお嫁さんをもらうと、二階の一番大きな部屋を白く塗りました。壁も天井も白で、ドアや窓枠はペパーミントグリーン、完全なるイメージチェンジです! しかし、部屋を全部塗り直すなら家を買った方が早いと思ったのでしょうか、一部屋だけ白く塗った後に、新しい家に引っ越してしまいました。
 そういうわけで僕は、その「茶から白へのリノベーション」を引き継ぐことになったのです。

 白い部屋はゲストルームにして、普段の生活はしないことに決めたので、不必要なものは出してしまいます。収納家具は最低限の食器が入れば充分。食器棚は元の8分の1に作り変えました。難関は大きな換気扇カバーの移動と、キッチンの上の吊り棚です。扉付きの棚を外して一枚の棚板だけにして、それにバランスを合わせて換気扇カバーを15㎝上げました。これは一人でやるにはなかなかの難工事でしたが、毎晩少しずつ考えながら進行し、どうにかやり遂げました。
 簡単にできてしまう所と、泣きたくなるような難関の両方あるのが、名作誕生の舞台裏です。

白い部屋

numéro_02

white room_summer

2019_05_01

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家庭内リゾート

 片付いてきたところで、壁に頑丈なフックを取り付け、大小のハンモックを二つ下げました。 以前、友人が三浦半島の先端で、廃業した木造の船大工店を借り、たくさんのハンモックと、五右衛門風呂を備え付け「昼寝城」という会員制サボリ処をやっていたことがあります。この二つのハンモックは「昼寝城」から買い受けたもので、遠すぎて会員になれなかった無念さが、ついに晴らされることになったのです。
 照明は一つ一つ考えながら、その場所に合わせて作ってゆく。船で使うような灯油ランプから芯を抜き、電球を入れると、かつての「昼寝城」が帰ってきたよう。20代の頃、米軍の将校ハウスからもらった緑のマーブルシェイドは、この日の来るのをずっと待っていたかのようです。

 さあ家庭内リゾートの誕生です! がらんとした木の床に、チェット・ベイカーを鳴らしましょう。ソファーカバーの波模様が、ハンモックの小舟を揺らしたら、僕はもう10秒とおきていられない。

*チェット・ベイカー:ボサノバにも大きな影響を与えた、ミッドセンチュリー、ウェストコーストジャズの寵児。

白い部屋
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自然のinspiration

緑と白は「天然の救い」

 5月も終わりとなれば、緑もぐっと濃くなり、その緑の中で咲く花は、白い花が多いのです。ウツギ、カマツカ、ガマズミ、ミズキ、ホオノキ、サワフタギ…梅雨から盛夏にかけても白の時代は続きます。オカトラノオ、ヒヨドリバナ、ヤマユリ、ウバユリ、ヤブミョウガ… 蒸し暑い梅雨の林縁で、雨粒をしたたらせた白い花は、一時暑さを忘れさせ、凛として誘惑し、溌剌と静止し、ぽったりと宙に浮く。その時期に飛ぶ昆虫の嗜好性が、花の色を決めるのかもしれない。しかし我々の目から見れば、最も清々しい色のマリアージュ「白と緑」が、この季節を彩るのは、「天然の救い」とでも言うしかない。
 北国の明るい草原に、泡のように浮かぶシシウドの花、石灰岩の島に降ったにわか雨が、道端に作る白いプールに這うつる草。緑と白の取り合わせには、何か前に向かう爽やかなスピードがある。
 そんな美しき自然界のひと時を、わが物とできるならしよう! そのイメージで走り抜けてしまおう。一番いいスピーカーをこの部屋に置こう。鋭敏な若者の耳を持って、初々しい古典ジャズを聴こう。
 何にも似ないスタイルで、一つとして同じ時代のない物を置き、ただ自然と自分自身を手本として、壁を塗り、椅子を塗り、ソファーの布を張替え、誰も見なかった調和を作ろう。ハンモックが揺れれば、一瞬で眠りに落ちてしまう。この別世界の刺激が、頭の後ろをしびれさすから。

 緑と白は「天然の救い」。世界が夏へと傾き、滝のように流れ落ちる、その一瞬のしぶきの色。

inspiration
inspiration

仕事部屋

numéro_01

work room

2022_03_26

work room

やりたいことの空間

 大きな仕事机に憧れていた時期がありました。製材所で分厚い杉板を3枚買ってきて幅2m、奥行き1.2mの机を作りました。最初はよかったのですが、だんだん嫌になってきた。大きすぎる机は大部分が物を置くだけになり、作業スペースは普通の机と変わらなくなる。それなら物を整理しておける棚があった方がいい。だいたいが両手を広げて届かないところに物があるのも使いにくい。
 何度か作り直して、最後は3枚の板のうち一枚を棚板にして、横幅を少し狭くしました。幅は自分の身長くらい、奥行きは片手を伸ばして届くくらい。これが僕のジャストサイズです。幅は窓と同じ幅ですから、シンプルに空間に収まっています。

 手作り家具の大きな利点として、家の構造にぴったり合った物を作れることがあります。窓枠と同じ幅の仕事机は探してもなかなか見つからないでしょう。でも部屋の真ん中に座って、ここにどんな机があったら理想なのかよくよく考えてみてください。考えつかなければ何か理想に近づくための実験をする。たとえば簡単な代用品を置いてもいい。段ボールの箱でもなんでも置いて考あえてみる。するとやはり部屋の形にぴったりはまる家具がいいということになる。理由は配置の美しさもあるし、掃除のしやすさもありますね。狭い隙間はなるべくない方がいいのです。
 明るい窓と仕事机、ダイニングテーブルと食器棚、工具棚と作業台… 緊密な関係が求められる家具たちがあります。その部屋のメインの2つの家具の関係、配置が決まれば、あとはそれをフォローしていけばいいわけです。

 実は僕の仕事部屋には、未解決の大問題があります。パソコン仕事や、ちょっとしたドローイングなどをするスペース、参考書籍を置く本棚があるのは当然です。これがこの部屋のメインの役割でしょう。しかし実際には、これとほとんど同じスペースを取っているものがあります。「物づくり作業場」です。ちょっとした木工をしたり、草や木の素材をキープしたり、そのための道具を置いておく場です。机や棚など、大きな物を作る時はリビングでやったり、庭でもやるわけですが、どうもせっかちな性格なのか、だいたい同じ部屋でやってしまう。
 多くの「やりたいこと」が一体となり混在する、僕自身の存在に関わる問題ですから、そう簡単には……。

浴室

numéro_01

bathroom_spring

2019_01_17

bath

ジャスミンの浴室

 もし新しく家を建てるなら、最初に考えるべきは光のことだと思います。照明ではなく、自然光のこと。
 南が明るく、北が暗いというのは、必ずしもそうではありません。北に大きな窓を作れば、柔らかい光が豊かに入る。画家のアトリエというのは、たいがい北の光を入れるのです。料理を瑞々しく見せるにも、光がしっとりしていい。北が明るく、風が抜ける家には、清潔感があり、豊かな広がりがあります。逆に南の光には荒さがありますから、植物やカーテンで和らげます。
 旅館やホテルなら、風呂は目玉商品だから、南に置かれるのが普通です。一般の家庭で風呂を南に置くのは贅沢のようですが、お風呂が大好きな人なら、南に置くのもいいですね。浴室で、エアプランツを巨大オブジェのように育て上げたら楽しそうです。

 いつからでしょう? うちの二階の風呂に、ジャスミンの蔓が伸びてきて、ルーパー窓から入り込みました。あっという間に北向きの窓枠を埋め尽くし、溌溂とした緑の気が浴室に満ちた。5月になって花が咲けば、もう玄関を開けたとたんに甘い香りに迎えられるのです。
 入り込んで5、6年は本当に美しかったのですが、しだいに混み入り、乱れてきました。思い切って剪定をしたら、また初々しさが戻りました。

 植物というのは南にあっても北にあっても、その場の空気を変えてくれる。動かしてくれる。切り花よりも鉢植え、鉢植えよりも窓越しの木、窓越しよりも入り込んできた蔓なのです。自分の力で入り込んできたものは強い。それを味方にできたらいい。ただ家が蔓に飲み込まれてしまう前に、適宜剪定がいいでしょう。

部屋と自然光
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自然のinspiration

地球の産毛

 柔らかな傾斜の丘に、午後の光が差し込み、水面のように草が揺れます。水色と黄色が溶け合うような、見たことのない光でした。その時、キツネがふらりと現れ、何秒かだけこちらを見ると、丘の向こうへ消えました。スラスラとキツネが通った後に、銀色の線が見えました。わずかな隙間なのですが、草の海が二つに割れ、光が入ったからなのです。それはやがて風になぜられ、見えなくなっていきました。

 ほんの十秒ほどのことでしょう。僕は望遠レンズを持っていたから、写真を撮ることもできたのです。でもキツネの少しの仕草も見ていたかったし、初対面の挨拶で、「嫌らしい人間だ」と思われるは嫌でした。写真にしないでも今日はまず見ているだけがいい。最初の一秒でそう決めたのです。

 しかしやはり心は収まらず、森の陰まで歩いて行って、そこに腰を下しました。もう一度出てきてくれたなら、今度は撮ろうと思います。ここでしばらく気配を消して、切り株のように静まります。
 風が手を差し伸べて、優しく草をなぜていました。時々高い空へゆき、トンビをくるくる回します。乳房のような丘の丸みが、心地よく風を受け、右から左へと草はなびき、左から右へと揺れました。丘の産毛のキラキラ光る、あの明るい窪みの辺りから、もう一度出てきてくれたなら、光はわずかに逆光気味で、キツネの耳先も背中も、溶けるように光るでしょう。緩やかな南向きの丘の、人目が届かないあたりに、巣穴を作ってくれたら、仔ギツネたちを見せてくれたら …… 夢想は広がるばかりですが、でもそれなら来年の春のことです。

 産毛が世界とキツネを分ける、丘と森陰とを分ける、僕をたまらなく駆り立てる、僕が写真に撮りたいのは、世界の狭間の光る帯。

inspiration
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