草むらの美
車を走らせているときでも、はっと路傍に目が行って、「きっとあそこの草むらは美しい」と。停車するときがあるのです。それは草が自由で、のびのびと生き、10か12か16種とかの植物が、その場でいっしょに生きている。蝶も蜂いるし、バッタもトンボいる、言ってみれば小さな生態系のあるところです。
そんな場所は東京にはなかなかない。僕がメインフィールドにしている東京西部の多摩地区は、自然がよく残っているとはいえ、1年に何度も出会えないのです。
10月18日、僕は多摩川沿いにある、東京で一番大きい田んぼの細い道で車を停めました。「まさか!」と思って確かめたのは1mほどの背の高い草。やはり国指定の絶滅危惧種タコノアシでした。ああそうか、やっぱりこういうところに出るのが本当なんだ!と納得するような場所。田んぼの一角にあった15m四方ほどに稲作がされず、数年置いておかれたようなところでした。どんな事情があったのかわかりません。この大きな田んぼの持ち主は一人ではありません。相続があったのか何なのか、とにかく草たちは、この明るい一角を一年間、思うがままにしたのです。
なんの手助けも、干渉も受けず、ただ豊かな水と光と、自分らが本来生きてきた環境の中で、植物が自由に生きる姿を見たことがありますか? 沖縄のサンゴ礁とか、白神のブナ林とか、阿蘇とか尾瀬とか大雪山ではなくて、あなたの傍らに生きるものの本当の姿を、見たことがありますか? きっと誰しも驚くと思うのです。雑草の美、草むらの美に。